【3486】 ○ シモーヌ・ストルゾフ (大熊希美:訳) 『静かな働き方―「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す』 (2023/12 日経BP) ★★★★

「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●マネジメント」 【1891】 フレデリック・W・テイラー 『[新訳]科学的管理法

「適度な仕事」というコンセプト。仕事と生活のバランスの大切さを説く。

静かな働き方.jpg静かな働き方2023.jpg シモーヌ・ストルゾフ.jpg シモーヌ・ストルゾフ(ジャーナリスト、デザイナー兼働き方研究者)
静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す』['23年]

 本書は、ジャーナリスト、デザイナー兼働き方研究者であるという著者が、「仕事は自己実現の手段だ」とする「ワーキズム(仕事主義)」が世間で広まった背景と、それを加速させている人々の思い込みを指摘したものです(『限りある時間の使い方―人生は「4000週間」あなたはどう使うか?』('22年/かんき書房)の著者オリバー・バークマン推薦)。

 元「仕事主義者」たちのストーリー紹介を軸に、仕事と自己評価を結びつけることのリスクと、そうしたワーキズムの罠に陥ることなく、仕事と人生のバランスをどう取るかを、「ほどよい」仕事というコンセプトのもと提案しています。

 第1章では、「仕事中心の生活」の是非を問いかけています。シェフを目指した女性が、憧れていたカリスマシェフのサポートでいったんは成功を得るものの、結局はその人物に裏切られたことを契機に、仕事以外のアイデンティを探るための旅をし、その経験を通して自分の価値を仕事以外にも見出したことで、新たな姿勢で仕事に向き合えるようになった事例が紹介されています。

 第2章では、ホワイトカラーの労働者にとって仕事は宗教的なアイデンティティに近いものとなっているとし、これを「ワーキズム」として疑念を呈しています。事例では、若く熱心な聖職者が、自身の"ワーキズム教"から脱し、ワークライフバランスを獲得するまでが描かれています。

 第3章では、「理想の仕事」を求めるあまり、やりがいの搾取に遭ってしまうことに警鐘を鳴らしています。自分の憧れの仕事として図書館司書になった女性が、「神聖な務め」という名のやりがい詐欺がなされている現実を目の当たりにし、自身が"理想の仕事"幻想を捨てることで、図書館改革に取り組むようになった経緯が紹介されています。

 第4章では、燃え尽き症候群の危険を扱っています。10代にして学生編集者として世に出た女性が、やがて燃え尽き症候群に陥り、仕事中心の生活をやめてみることで、自分自身の価値を見つめ直すことができたという話が紹介されています。

 第5章では、愛社精神というものを再考しています。家族的な社風の企業に入った社員が、現実にある労務問題に直面する中、労働組合の設立に関わっていく様が描かれています。

 第6章では、オーバーワークの問題を扱い、長く働けば成果が上がるというものではないということを述べ、第7章では、仕事に何を求めるかは自分で決めなければならないとしています。第8章では、肩書は成功の証ではないとして、出世競争の無意味さを説いています。

 第9章では、「あまり働かない世界」を作るためとして、政府に対してはベーシックインカムの検討を、企業へは言葉よりもまずは行動で示すことを、個人へは、自分なりの「ほどよい」仕事を定義することを提言し、本書を締め括っています。

 仕事は重要ではあるが、それがすべてではなく、生活の中で仕事が占める割合を見直し、家族、趣味、休息、健康など、他の重要な要素にも注意を払うことが大切であること、仕事と生活のバランスを整えることで、より充実した日々を送ることができるということを、改めて教えてくれる本です。

 個人的には、さまざまなアイデンティティを育むと誰しも人生の困難を乗り越えやすくなる(逆を言えば、ひとつしかアイデンティティがないと変化に対応するのが難しい)としているのが啓発的でした。「働くということ」を考えてみる上でお薦めです。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1